接骨院・鍼灸院が法人化する前に知っておくべき5つのメリット・デメリット
ブログ監修者

プランナー
棚橋和宏
(たなはしかずひろ)
【保有資格:医療経営士3級】

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Contents
接骨院・鍼灸院が法人化を検討すべきタイミングとは?

法人化を考えるきっかけとなる収益ライン
個人事業主として接骨院や鍼灸院を運営していると、ある時点で「このまま個人で続けるべきか?それとも法人化すべきか?」という選択に直面します。最も分かりやすい判断材料の一つが「年間の利益」です。おおよその目安として、年間利益が500万円を超えるようになると、法人化による節税メリットが現実的になります。
個人事業主の場合、所得税は累進課税のため、利益が増えるほど税率も高くなり、最大45%に達することもあります。一方、法人化すれば、法人税率はおおむね23.2%で一定のため、利益の大きい事業者ほど節税効果が大きくなります。収入が安定し、一定以上の利益が見込めるようになったら、法人化を検討するタイミングといえるでしょう。
従業員雇用や拡大計画との関係
法人化を考えるべきもう一つの大きな要因が「スタッフの雇用」です。受付スタッフや施術補助など、従業員を雇い始めると、給与支払い、社会保険、労務管理などの責任が生じます。個人事業主のままでは、これらの業務を明確に管理するのが難しくなるケースもあります。
法人化することで、雇用契約や給与体系を明確にし、従業員とのトラブルを回避しやすくなります。また、今後、院を拡大して2店舗目、3店舗目の展開を考えるのであれば、法人化しておくことでスムーズな体制づくりが可能になります。
税理士・専門家に相談すべきタイミング
「法人化した方がいいかもしれない」と感じたら、自己判断だけで進めるのではなく、まずは税理士などの専門家に相談することをおすすめします。特に、以下のような状況に当てはまる場合は、早めにプロの意見を取り入れるのが賢明です。
- 年間利益が500万円を超えている
- スタッフを2名以上雇用している
- 設備投資や支店展開を考えている
専門家は、節税だけでなく、将来の経営プランまで踏まえた法人化の是非を具体的にアドバイスしてくれます。「思いついたらすぐ法人化」ではなく、「相談してから判断する」が成功への第一歩です。
法人化による5つの主なメリット

節税効果による利益確保
法人税と所得税の違い
個人事業主の所得税は利益に応じて税率が上がる「累進課税」です。利益が大きくなるほど、税率も高くなり、最大で45%になることもあります。これに対し、法人の税率は原則として一定で、23.2%前後に抑えられます。
つまり、利益が増えたときにかかる税金の差が大きく、法人化することで結果的に手元に残るお金が多くなる可能性が高くなります。特に年間利益が500万円を超えるような接骨院・鍼灸院では、節税の恩恵を強く受けるでしょう。
経費計上の幅が広がる仕組み
法人では、役員報酬や出張手当、会議費などを経費として認められる範囲が広くなるのも特徴です。たとえば、経営者である自分に役員報酬を支払い、そこから個人の所得税を納める仕組みを取ることで、全体としての税負担を軽くできます。
また、家族を役員として迎えることもできるため、家族経営における収益分散の選択肢も広がります。適正な範囲での経費処理により、節税と資金管理の柔軟性が増します。
社会的信用の向上と融資の優位性
法人は登記された正式な組織体としての信頼があり、金融機関や取引先からの信用度が高くなります。その結果、融資の審査に通りやすくなり、設備投資や店舗のリニューアルなど資金が必要なときに有利になります。
また、法人名義での契約が可能になることで、事業者としての責任と信頼を明確に打ち出すことができます。地元の患者さんや地域社会からの評価にもつながるでしょう。
責任が限定される「有限責任」
個人事業主の場合、事業で生じた損失や借金に対して無限責任を負います。つまり、最悪の場合は個人の財産を使って弁済する義務があります。
一方、法人では、原則として出資額の範囲内でのみ責任を負う「有限責任」となります。これは、事業がうまくいかなかったときに、個人の生活や資産を守る安全弁になる点で大きなメリットです。
決算期を自由に設定できる柔軟性
法人は、決算期(事業年度の締め)を任意に設定できます。これにより、繁忙期や年度末を避けて、余裕をもって帳簿や申告を行うスケジュールを組めるようになります。
たとえば、3月が繁忙期の接骨院であれば、8月や11月に決算期を設定しておくことで、会計処理や税務対応に余裕が生まれます。これにより、業務の負担を軽減できます。
赤字の繰越期間が10年に延長される
個人事業主の場合、赤字は最大3年間しか繰り越せませんが、法人化すれば最大10年間の繰越が可能になります。これは、過去の赤字を翌年以降の黒字と相殺することで、税負担を軽くできる制度です。
開業から数年間は設備投資がかさみ赤字になることもありますが、この制度を活用すれば将来的な黒字化を見据えての戦略的経営が可能になります。
接骨院・鍼灸院が注意すべき法人化のデメリット

設立コストと維持費用が発生する
法人を設立するには、登記にかかる登録免許税や定款の認証費用など、初期費用として約20万円前後が必要です。個人事業主であれば開業届を出すだけで済むため、この初期投資は法人化の大きなハードルの一つになります。
また、法人化後は毎年の決算書作成や法人税申告が義務付けられ、会計事務所に依頼する場合はその報酬も発生します。これに加えて、法人住民税(赤字でも均等割で最低7万円程度)も支払いが必要です。つまり、利益が少ない状態では法人維持コストが大きな負担になる可能性があります。
社会保険への加入義務とコスト増
法人になると、たとえ従業員が1人だけでも、健康保険と厚生年金への加入が義務になります。これにより、保険料の事業主負担が発生し、個人事業のときよりも人件費が増加します。
特にスタッフを複数雇用している場合、保険料の会社負担が経営を圧迫する要因になり得ます。ただし、社会保険に加入していることは労働環境の整備にもつながるため、長期的にはプラスと考える経営者も多いです。
赤字でも税金がかかるケースとは?
法人はたとえ赤字であっても、「法人住民税の均等割」として最低でも年間7万円程度の税金を支払う義務があります。つまり、利益が出ていなくても、毎年確実に固定の支出があるということです。
また、資本金が1,000万円を超えている場合には、赤字でも消費税の納税義務が発生するケースがあります。これらの制度を理解せずに法人化すると、予想外の支出で資金繰りに苦しむこともあるため注意が必要です。
法人化に向いている院の特徴と判断基準

年間利益が安定して300万円以上ある
法人化を検討する一つの目安は、年間利益が300万円以上出ているかどうかです。節税効果を実感できるラインは500万円前後とも言われますが、300万円を超えて安定している場合でも、法人化による恩恵を十分に受けられる可能性があります。
とくに、所得税の累進課税による負担が重く感じ始めた段階で法人化を検討すれば、手取りの増加や事業資金の再投資に余裕が生まれるでしょう。
スタッフを雇用し、労務管理が発生している
受付や施術補助など、スタッフを継続的に雇っている場合は、法人化のメリットがさらに大きくなります。法人として組織運営を行うことで、給与体系や社会保険の整備、労務トラブルの予防がしやすくなるからです。
また、法人化により雇用の安定性や労働条件の透明性が高まり、スタッフの定着率向上にもつながるという副次的な効果も期待できます。
複数店舗の展開や設備投資を計画している
将来的に分院展開や新しい設備導入を検討している院にとって、法人化は必須に近い選択肢です。法人であれば、融資や補助金の対象になりやすくなるうえに、事業のスケールアップに必要な信用や安定性が得られます。
また、複数拠点での雇用や会計処理も法人のほうが効率的に行えるため、経営の基盤を強固にしながら成長を目指せる体制が整いやすくなります。
まとめ|法人化の判断に必要な視点と次のステップ

メリットとデメリットを比較するチェックリスト
接骨院・鍼灸院の法人化には、節税や信用力向上といった大きなメリットがある一方で、設立費用や維持コストなどの負担も生じます。そのため、一方的な視点ではなく、メリットとデメリットを冷静に比較することが重要です。
以下のような点をチェックしてみましょう。
- 年間利益が300万円〜500万円以上あるか
- スタッフを雇用しているか
- 将来的に拡大や複数店舗の計画があるか
- 社会保険の加入に対応できるか
- 税務・会計業務に一定のコストをかけられるか
これらの項目に複数当てはまる場合は、法人化による恩恵を受けやすい事業体といえます。
専門家と相談してスケジュールを立てよう
法人化を決断したら、まずは税理士や社会保険労務士など専門家との相談をおすすめします。事前に相談しておくことで、手続きの流れや税務処理、社会保険の対応などを明確にし、トラブルの回避につながります。
また、決算月の設定や役員報酬の取り方など、法人ならではの制度設計を最初にしっかりと組み立てることで、経営がより安定したものになります。
法人化は「急ぐべき」ものではなく、「準備して進める」ものです。しっかりとスケジュールを立てて、無理のないタイミングで実施しましょう。
法人化の次に考えるべき経営戦略
法人化はあくまでスタートラインです。そこから先の経営戦略としては、以下のような取り組みが重要になります。
- 自費施術メニューの拡充による収益強化
- デジタルツール導入による業務効率化
- スタッフ教育によるサービス品質の均一化
- 補助金・助成金の活用による投資負担の軽減
法人という形を持ったことで選択肢が広がり、より柔軟で戦略的な経営が可能になります。将来のビジョンを明確にし、成長の軌道を描いていきましょう。