インボイス制度で売上が減る?接骨院・鍼灸院に起こる3つの変化とその対処法
ブログ監修者

プランナー
棚橋和宏
(たなはしかずひろ)
【保有資格:医療経営士3級】

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Contents
インボイス制度とは?接骨院・鍼灸院が押さえるべき基本知識

インボイス制度の概要と目的
インボイス制度は、2023年10月から日本で始まった新しい消費税制度のことです。正式には「適格請求書等保存方式」と呼ばれ、取引の中で消費税を正確にやり取りするために導入されました。インボイスとは、買い手が仕入税額控除を受けるために必要な情報がきちんと記載された請求書のことを指します。
この制度が始まった背景には、取引の透明性を高め、税務処理の正確性を保つという目的があります。特に法人同士の取引においては、インボイスが発行されていないと、仕入税額控除ができず、その分コストが増えてしまうのです。
適格請求書(インボイス)の要件とは
適格請求書、つまりインボイスとして認められるためには、いくつかの情報を正確に記載する必要があります。たとえば、以下のような項目が求められます。
- 発行事業者の氏名または名称、登録番号
- 取引年月日と内容
- 税率ごとの消費税額
- 書類の交付先の名称(任意)
これらの項目が欠けていると、買い手である法人が消費税の控除を受けられず、不利益を被ることになります。そのため、適格請求書を発行できる「インボイス発行事業者」としての登録が、今後の取引維持にとって非常に重要になります。
接骨院・鍼灸院にとっての制度の重要性
接骨院や鍼灸院では、これまで消費税に関する意識があまり強くなかったかもしれません。なぜなら、保険診療が中心の場合、消費税の課税対象外となっていたからです。
しかし、近年では自費メニューを導入する院が増え、法人との契約も一般的になりつつあります。このような中でインボイス制度に対応できていないと、「インボイスが出せないから取引を見直したい」と法人顧客から言われるリスクが高まります。
つまり、制度を正しく理解し、必要に応じて登録や書類整備を行うことが、これからの院経営では必須となっているのです。
接骨院・鍼灸院に起こる3つの主な変化

法人顧客との取引への影響
インボイス制度の導入によって、法人顧客が接骨院や鍼灸院を選ぶ基準が大きく変わろうとしています。特に企業や団体と契約して施術を提供している院では、「インボイス発行が可能かどうか」が取引継続の鍵となります。
法人側は支払った消費税分を経費として控除したいため、適格請求書の受け取りが必須となります。インボイスを発行できない場合、「他の発行可能な院に変更したい」という判断が下されることもあり得るのです。これまで築いてきた信頼関係も、制度への未対応が原因で崩れるリスクがあります。
自費施術と保険診療の取り扱いの違い
インボイス制度はすべての取引に適用されるわけではありません。保険適用の施術は非課税扱いとなるため、インボイスの発行対象外です。つまり、保険診療だけを提供している場合、インボイス制度の影響は限定的です。
一方、自費施術は消費税の課税対象となります。そのため、インボイス発行事業者としての登録が求められる可能性が高くなります。最近では美容鍼や骨盤矯正、パーソナルトレーニングなどを提供している院も多く、制度に対応しなければ経営面での影響が出るケースが増えています。
課税事業者と免税事業者の選択が経営に与える影響
個人経営の接骨院や鍼灸院は、売上が年間1,000万円以下であれば免税事業者となり、消費税を納める必要がありません。この点は大きなメリットですが、インボイス制度では「免税事業者=インボイスが発行できない」という立場になります。
課税事業者に転換すればインボイスを発行できるようになりますが、その分、消費税の納税義務が生じ、経費計算や会計処理も複雑になります。制度対応のために税理士との契約が必要になるケースもあり、結果として実質的な収益が減る可能性もあります。
経営規模や顧客構成を見ながら、課税事業者に転向するかどうかは慎重に検討すべき選択といえるでしょう。
インボイス制度による売上減少のリスクとその背景

法人顧客離れの懸念
接骨院・鍼灸院がインボイスに対応していない場合、もっとも大きなリスクは「法人顧客の離脱」です。インボイスを受け取れないというだけで、法人側は仕入税額控除を受けられなくなり、実質的なコストが増加します。
たとえば、企業が社員の健康管理の一環として院に通わせていたとしても、インボイスが発行されなければ、その費用の一部が税務上不利になるため、別の対応可能な院への切り替えを検討せざるを得なくなります。結果として、これまで安定していた法人契約が解消され、売上減少に直結するおそれがあります。
インボイス未対応による取引停止リスク
制度開始以降、業界を問わず「インボイスを発行できるかどうか」が新たな選定基準となりつつあります。これは医療・健康業界においても例外ではありません。
たとえ現在は法人との契約が続いていても、決算期や契約更新のタイミングで「インボイス非対応」を理由に見直しの対象となることがあります。さらに新規法人顧客の獲得にも不利となり、「インボイス対応済み」の競合院が優先されることが増えてきています。
制度への無関心や準備不足は、将来的な契約機会の喪失へとつながりかねません。
消費税納付による手取り減の可能性
逆に課税事業者としてインボイスを発行するために登録を行った場合、これまで納めていなかった消費税を負担する必要が生じます。
たとえば、年間売上のうち500万円が自費診療だった場合、消費税率10%なら50万円の納税義務が発生します。この金額は、経費としても大きく、個人経営の院にとっては「思ったよりも手取りが減った」と感じることもあるでしょう。
特に税務処理に慣れていない場合、消費税の納付準備をしておらず資金繰りに苦労する可能性もあります。このように、インボイス対応は法人顧客維持の観点から重要ですが、一方で収益面での計算もしっかりと行っておく必要があります。
売上を守るために今すぐできる3つの対策

課税事業者への登録を検討する
法人顧客との取引を継続したいと考える接骨院・鍼灸院にとって、もっとも確実な対応策は「課税事業者としてインボイス発行事業者に登録すること」です。これにより、適格請求書を発行できるようになり、法人側にとっても仕入税額控除が可能になります。
もちろん、課税事業者となれば消費税の納税義務が生じますが、それ以上に法人顧客からの信頼を維持し、取引を継続できるというメリットがあります。特に自費施術の売上比率が高い院ほど、登録の判断が経営に大きく影響します。
インボイス制度を理解したうえでの顧客説明
制度の内容をしっかり理解したうえで、顧客、特に法人担当者へ自院の対応方針を丁寧に説明することも重要です。「インボイス制度に対応しています」と明示するだけで、安心して契約を続けてもらえる可能性が高まります。
逆に対応していない場合でも、「今後の対応予定」「課税事業者への検討状況」などを誠実に伝えることで、急な契約解除などの事態を防ぐことができます。情報を正しく提供することで、院と顧客の間にある不安を取り除くことができます。
売上構成の見直しと自費メニューの強化
インボイス制度への対応をきっかけに、売上構成の見直しを図るのも一つの戦略です。特に保険診療中心の院では、制度の影響が少ないとはいえ、今後の収益性向上のために自費メニューを強化していくことが求められます。
インボイス発行可能なサービスの整理
まずは、自院の提供しているサービスのうち、課税対象となるメニューを明確に整理しましょう。美容鍼、EMS機器による筋肉強化、骨盤矯正など、消費税のかかるサービスに関しては、インボイス対応の体制を整えておく必要があります。
高単価メニューの導入と魅せ方の工夫
さらに、単価の高い自費メニューを新たに導入したり、既存メニューの価値を再発信したりすることも効果的です。たとえば「法人向け健康サポートプラン」「姿勢改善プログラム」などの形で訴求することで、他院との差別化にもつながります。
インボイス制度対応でよくある質問と注意点

保険診療だけを行っている場合の対応は?
保険適用の施術は非課税となるため、インボイス制度の対象外です。そのため、保険診療しか行っていない院では、基本的にインボイス発行の必要はありません。課税事業者に登録しなければならない義務もなく、従来どおりの経営を続けることが可能です。
ただし、将来的に自費施術を導入する予定がある、あるいは一部でも物販を行っている場合には、インボイス対応の準備をしておくことが望ましいでしょう。制度はすでに始まっており、今後も対応が求められる場面が増える可能性があります。
一人院長(個人事業主)でも対応が必要?
はい、必要です。インボイス制度は、法人・個人を問わずすべての事業者が対象になります。たとえ従業員を雇っていない一人院長の院でも、自費診療を提供していて、法人顧客と取引がある場合は、インボイス発行の可否が問われます。
そのため、経営規模にかかわらず「自分の院がインボイス制度にどう向き合うべきか」を明確に判断し、必要であれば課税事業者として登録することを検討しましょう。
制度開始後にやるべき確認事項とは
インボイス制度がスタートした今、接骨院・鍼灸院がまず確認すべきことは以下の3点です。
- 自院が課税事業者か免税事業者かの確認
- 自費施術や物販など、課税対象となるサービスの有無の把握
- 主要な取引先(特に法人)がインボイス対応を求めているかのヒアリング
これらを整理することで、制度への対応方針が明確になります。判断に迷った場合は、税理士や行政書士などの専門家に相談することも有効です。