接骨院の開業に必要な資金はいくら?費用の内訳と準備の進め方
ブログ監修者
行政書士/医療経営士3級
棚橋 和宏
(たなはし かずひろ)
emio株式会社 補助金・助成金情報担当
笑みを行政書士事務所 行政書士
【保有資格】
(令和8年7月15日登録)
大手リハビリ機器メーカーで7年半、医療機器コンサルタント会社で4年勤務。現在はemio株式会社にて、接骨院・整骨院・鍼灸院向けの医療機器導入、補助金・助成金情報の発信、設備投資に関する相談対応を行っています。
令和8年7月15日付で行政書士登録。笑みを行政書士事務所を開設し、補助金申請書類の作成支援、許認可に関する相談、事業者向けの書類作成支援にも対応しています。
本ブログでは、施術所業界の現場感と行政書士としての知見をもとに、補助金・助成金、設備導入、Web集客、AI活用などに関する情報をわかりやすくお届けします。
接骨院の開業に必要な資金は、規模や立地によって幅が大きく、数百万円から1,500万円程度が目安とされます。金額そのものより大切なのは、資金を「開業までに一度だけかかる初期投資」と「開業後に毎月かかる運転資金」に分けて考えることです。この分け方を押さえると、必要額の見積もりも、調達の計画も立てやすくなります。本記事では、これから開業を考える施術所の院長やスタッフに向けて、費用の内訳と準備の進め方を整理します。
開業資金は「初期投資」と「運転資金」で分けて考える

開業資金を一つの塊で捉えると、見積もりが甘くなりがちです。性質の異なる二つの費用に分けることが、資金計画の出発点になります。
なぜ二つに分けるのか
初期投資と運転資金では、お金が出ていくタイミングも、準備すべき考え方も異なります。初期投資は開業前にまとまって必要になり、運転資金は開業後に毎月かかり続けます。分けずに合算してしまうと、開業直後に手元の現金が尽きるという事態を招きやすくなります。
例えば、内装や機器にほぼ全額を使い切ってしまうと、開業初月から発生する家賃や人件費を払う現金が残りません。二つに分けて考えることで、「開業に使ってよいお金」と「開業後に残しておくお金」の線引きができます。
初期投資は開業までに一度だけかかる費用
初期投資は、物件の取得、内装工事、施術機器の導入など、開業の準備段階でまとまって発生する費用です。相場としては500万円から1,200万円程度が一つの目安とされますが、居抜き物件を活用するか、機器を新品でそろえるかなどで大きく変わります。
運転資金は開業後の毎月を持ちこたえる費用
運転資金は、開業してから売上が安定するまでの間、家賃・人件費・水道光熱費などの固定費を払い続けるための現金です。売上が軌道に乗るまでには時間がかかるため、この運転資金をどれだけ厚く準備できるかが、開業後の安定を大きく左右します。
全体の目安は規模で幅が大きい
初期投資と運転資金を合わせた総額は、小規模であれば数百万円台に収まることもあれば、機器を充実させた中規模の院では1,500万円程度に達することもあります。金額の幅が大きいのは、それだけ選択の余地があるということでもあります。まずは自院の方針を固め、そこから必要額を積み上げていくことが大切です。
初期投資の内訳

初期投資は、大きく五つの項目に分けて考えると見積もりやすくなります。ここでは項目ごとに、何にお金がかかるのかを整理します。
物件取得費
テナントを借りる場合、保証金(敷金)、礼金、仲介手数料、前家賃などが最初に発生します。特に保証金は家賃の数か月分になることが多く、初期投資の中でも大きな比重を占めます。
例えば、家賃を抑えられる物件でも、保証金がまとまって必要になれば初期の負担は小さくありません。ただし、居抜き物件を選べば内装工事を圧縮できる場合があり、物件選びは初期投資全体に影響します。
内装・改装工事費
施術スペース、受付、待合、更衣スペースなどをつくる内装工事の費用です。スケルトン(内装のない状態)からつくる場合は費用がかさみ、居抜きを活用すれば抑えられます。
注意したいのは、施術所は動線やベッドの配置が使い勝手を左右する点です。安さだけで決めると、開業後に使いにくさが残ることがあります。工事費は削りどころであると同時に、削りすぎると後悔しやすい項目でもあります。
施術機器・備品
物理療法機器、施術ベッド、タオルなどの備品にかかる費用です。機器は新品でそろえるか、中古やリースを活用するかで金額が大きく変わります。
例えば、開業当初から高額な機器をすべて新品でそろえる必要があるかは、一度立ち止まって考える価値があります。導入を段階的に進めたり、リースを組み合わせたりすることで、初期投資を平準化できる場合があります。機器の購入とリースの比較は、それぞれの資金繰りへの影響を踏まえて判断することが大切です。
看板・広告宣伝費
開業を地域に知ってもらうための看板、チラシ、ホームページ、地図サービスへの登録などにかかる費用です。開業してから来院につなげるためには、開業前後の告知が欠かせません。
ここを軽視すると、良い院をつくっても存在を知られないまま時間が過ぎてしまいます。一方で、媒体を絞らずに広げすぎると費用がかさむため、地域と対象を踏まえて優先順位をつけることが求められます。
資格・届出まわりの費用
柔道整復師として施術所を開設する際は、保健所への開設届や、療養費の受領委任に関する登録などの手続きが必要です。手続き自体の費用は大きくないことが多いものの、準備には時間がかかります。費用面より、スケジュール面で余裕を見ておくことが大切です。
運転資金をなぜ厚めに見るのか

開業準備では初期投資に目が向きがちですが、資金繰りでつまずく原因の多くは運転資金の不足にあります。接骨院ならではの入金の仕組みを理解しておくことが欠かせません。
保険(療養費)は入金まで数か月かかる
接骨院では、売上の一定割合を保険(療養費)が占める場合があります。この療養費は、保険者へ請求してから実際に入金されるまで、数か月の期間を要するのが一般的です。つまり、施術を行っても、その分の現金がすぐに手元に入るわけではありません。
例えば、開業初月に施術を行っても、その療養費が入金されるのは数か月先になります。その間も家賃や人件費は毎月出ていくため、入金までの谷を埋める現金が必要になります。
固定費は開業初月から出ていく
家賃、人件費、水道光熱費、リース料などの固定費は、売上の有無にかかわらず毎月発生します。開業直後は来院者が少ないことが多く、売上より固定費が上回る時期が続くことも珍しくありません。
3〜6か月分を手元に残す考え方
こうした事情から、運転資金は少なくとも3か月分、できれば6か月分程度を手元に残しておくことが一つの目安とされます。初期投資に資金を使い切らず、開業後の数か月を持ちこたえられる現金を確保しておくことが、安定した立ち上がりにつながります。
資金繰りは「入金の遅れ」を織り込む
運転資金を見積もるときは、単に固定費の数か月分を足すだけでなく、療養費の入金が遅れることを織り込むことが大切です。売上の見込みが立っても、現金として入るのは先になるという前提で、余裕を持った金額を設定しておくと安心です。
資金の調達方法

必要額が見えてきたら、次はそれをどうそろえるかです。自己資金だけで足りない場合の調達先も含めて整理します。
自己資金は総事業費の2〜3割が目安
自己資金は、総事業費の20%から30%程度を用意できると、その後の調達もスムーズになりやすいとされます。自己資金が多いほど、融資の審査でも計画の実現性を示しやすくなります。
日本政策金融公庫の創業融資
これから開業する事業者にとって、日本政策金融公庫の創業向け融資は主要な選択肢の一つです。実績のない開業時でも相談しやすい制度が用意されています。制度の内容や条件は改定されることがあるため、申し込みの際は最新の情報を公式で確認することが大切です。
民間金融機関・自治体の制度融資
民間の金融機関から、信用保証協会の保証を付けて借り入れる方法や、自治体が用意する制度融資を利用する方法もあります。地域によって使える制度が異なるため、開業予定地の自治体の窓口や商工会に相談してみることをおすすめします。
補助金・助成金は「後から入る」前提で
設備投資や販路開拓に使える補助金・助成金もありますが、多くは経費を支払った後に交付される「後払い」の仕組みです。そのため、補助金をあてにして初期投資を組むのではなく、いったん自己資金や融資でまかない、後から補填されるものと捉えるのが安全です。制度の種類については、別記事「補助金・助成金は年間何種類ある?」も参考になります。
リースの活用で初期投資を平準化する
施術機器をリースで導入すれば、初期に一括で支払う代わりに、毎月の費用として平準化できます。手元の現金を運転資金に回せる利点がある一方、総支払額は購入より大きくなる場合があります。資金繰りとの兼ね合いで判断することが大切です。
開業資金の準備の進め方

最後に、資金をそろえるまでの手順を整理します。金額を先に決めるのではなく、計画から積み上げていくことがポイントです。
まず事業計画で必要額を積み上げる
いくら必要かは、どんな院をつくりたいかによって決まります。立地、規模、機器の方針、想定する来院者などを事業計画に落とし込み、そこから初期投資と運転資金を積み上げていきます。相場の金額はあくまで参考にとどめ、自院の計画に沿った金額を出すことが大切です。
相見積もりで初期投資を精査する
内装工事や機器の費用は、複数の業者から見積もりを取ることで、金額の妥当性を確認できます。一社だけの見積もりで決めず、内訳を比べることで、削れる部分と削るべきでない部分が見えてきます。
自己資金と調達のバランスを決める
積み上げた必要額に対して、自己資金でどこまでまかない、不足分をどの調達先で補うかを決めます。自己資金を使い切らず、開業後の運転資金を手元に残すバランスを意識することが欠かせません。
資金繰り表で開業後半年を見える化する
開業後、毎月いくら出ていき、いつ療養費が入金されるのかを、資金繰り表として月ごとに書き出しておくと、現金が不足する時期を事前に把握できます。数字で見える化しておくことで、運転資金をどれだけ残すべきかの判断がしやすくなります。
まとめ
接骨院の開業に必要な資金は、規模や立地によって幅がありますが、「初期投資」と「運転資金」に分けて考えることで、必要額の見通しが立てやすくなります。初期投資は物件・内装・機器・広告・手続きの五つの項目に分けて積み上げ、運転資金は療養費の入金が数か月先になることを織り込んで、3か月から6か月分を手元に残しておくことが一つの目安です。
資金の調達は、自己資金を総事業費の2〜3割ほど用意したうえで、日本政策金融公庫の創業融資や自治体の制度融資などを組み合わせて考えます。補助金・助成金は後払いが基本のため、初期の資金計画には含めず、後から補填されるものと捉えておくと安全です。まずは事業計画で必要額を積み上げ、相見積もりで精査し、資金繰り表で開業後の半年を見える化することから始めることで、無理のない開業に近づけるでしょう。



